コーピングとは?ストレスの種類別の実践方法まとめ

皆さんが生きている現代社会は豊かになり、便利で快適な生活ができるような環境になりましたよね。科学技術は高い水準で発展し、多くの情報を自由に得られるようにもなりました。

しかし便利になった反面、現代社会は心にも身体にも四六時中負荷がかかる「ストレス社会」になりました。
つまり、皆さんは外部から絶えず刺激を受けている環境になっているということです。

外部から刺激を受け続けると、心や身体へ知らず知らずのうちに負荷がかかり、強いストレスをため込みさまざまな身体の不調を引き起こす原因になります。

そんな絶えず刺激を受けるストレス社会になった今、自分のメンタルを守るための対処方法を知っておくことが必要ですよね。

今回は、自分自身でストレスにうまく対処するための方法であるコーピングを紹介していきます。

コーピングとは?

コーピング(coping)は、英語のcope【うまく処理する、~を抑えようとする、(なんとか)うまくやっていく】という単語に由来する言葉です。
実際には、ストレスへの「対応・対処の方法」という意味で使われます。

コーピングの歴史について熊本大学医学研究科の鹿井典子博士の論文によると、
『コーピングという言葉は新しいものではなく、精神分析の分野では、Anna Freud (1936)が不安に対する無意識の防衛機制として、使ったとされている。1970年に入り、社会的、環境的な側面の影響が重視されるようになり、ライフ・イベンツ研究(Brown, Bifulco, & Harris, 1987; Brown, Harris, & Eales, 1993)が展開されるようになると、環境的・外的な側面から影響を受けるストレスに対して、個人がとる意識的な対処行動としてとらえられるようになってきた。 』
と述べられています。

時代が進むにつれて、コーピングは社会的、環境的な側面の影響が重視されるようになり、今のコーピングのとらえ方に変化していったんですね。

このコーピングの時代によるとらえ方の変化について、鹿井典子博士は論文で
『コーピングのとらえ方の変化の背景には、認知的ストレス理論に基づく Lazarus と Folkman の研究(Folkman, & Lazarus, 1980, 1985; Lazarus, & Folkman, 1984)が大きな影響を与えたといわれている。1970年代以降のコーピング研究においては、被験者自身が自分の意識化されたコーピング・スタイルを自己評価し報告するという形をとるようになり、(Cohen, Kessler, & Gordon, 1997; McCrae, 1984)、無意識の防衛機制を、意識化するということの必要性がなくなった。(Vaillant, 1976)。』
と述べています。

つまり、コーピングは、アメリカの心理学者リチャード・ラザルス博士の『認知的評価が感情や意欲に影響を及ぼす』という考え方に基づいた研究により『とある出来事が生じた場合、人が出来事をどのようにとらえるかということ(認知的評価)がストレスに大きな影響を与え、それにより本人のストレスへ対処する行動が決まるものとする』という考え方に変化したということなんですね。

鹿井典子博士の論文ではさらに、
『Lazarus and Folkman (1984, p 141)はコーピングとは、「個人の資源(resources)に負荷を与えたり(ストレッサー)、その資源を超えると評価された、外的ないしは内的要請(ストレス反応)を処理するために行う認知的行動的努力で、その努力は常に変化するものである。個人が過度なストレスを感じている状況であると評価する、人間対環境の関係から起こっている要求と、そこから生じる感情とを、個人が処理していく過程のことであると定義している。」』
と述べています。

この論文を読み進めていく中で分かったことは、コーピングには3つの特徴があるということです。

1つ目は、コーピングとは常に変化する方法だということ。
2つ目は、コーピングはストレスの状況に適応するために行われる方法だということ。
3つ目は、コーピングが意識的・主観的・行動的な努力であるということ。


コーピングは、論文でも述べられていた通り、時代によっても状況によっても変化する方法です。それ以外にも、人や年齢によってもとらえ方が変わります。
人は過度なストレスを感じている状況に遭うと、居心地の悪さや苦痛、不快感などを感じます。
しかし、同じストレスを感じたとしても人によってストレスへの対処方法は違います。
例えば悪口を言われたとして、「人に相談する人、1人で考える人、ストレスとなった問題から逃げる人」などストレスへの対処方法は人それぞれです。
人それぞれストレスを受けた状況に対応・対処して、ストレス軽減を図ったり調整することにより平穏な気分を取り戻そうとしたり、ストレスを引き起こした直接の問題を解決することでストレスを受けた状況へ適応できるように変化させようとします。
心身の平衡を取り戻そうとするための努力方法・量、つまりストレスを受けた状況へのコーピングは人により異なり、それぞれ特有の傾向があるのです。

普段、私たちはさまざまなストレスを感じながら生きていますよね。
しかし、強いストレスをため込み続けると心や体に大きい負荷がかかり、さまざまな身体の不調を引き起こす可能性があります。
コーピングを活用することで、自分が感じたストレスを管理できるようになり、行動へのモチベーションを保ち、能力を発揮して成果を上げることにつながると期待されています。

では、コーピングに深く関係する「ストレス」について見ていきましょう

コーピングをストレス管理でうまく活用するために、ストレスがどういうものか見ていきましょう。

ストレスについて

東京大学で助教授を経て、現在は早稲田大学人間科学学術院教授と同大学応用脳科学研究所所長に着任されている熊野宏昭博士が、東京大学助教授に着任されていた時に記述した『ストレスの評価』についての論文によると、
『ストレスという言葉は、1985年頃から広まり始めた言葉で、現在では日常生活の中に定着し、小学生からご老人までストレスという言葉を知らない者のほうが珍しいし、と言うことは、ストレスがたまるという体験も万人に共通のものになっていると思われる。』
と述べられています。

また、ストレスとは何かと聞かれた時に的確な答を言える者はほとんどいないことについても触れています。
『ストレスとは何かという問いに的確な答ができない第一の理由は、ストレスが実体ではないということ。つまり身体内を見たり、体内の物質を測定したり、特定の質問をすることによって、ストレスを確実に特定できないという事実があるからだ。』
と述べています。

最後に、
『ストレスとは実体ではなく、多くの人々が共有する体験に基づいて仮定された「構成概念」である。』
と結論づけています。
そのため、すべての研究者が一致する厳密な定義を下すことは不可能であるが、
『何らかの有害な刺激「ストレッサー」が外から加わり、その状況を不快に感じることが前提となり、その際に生体に生じる内的状態をストレスと呼び、その結果生体がしめす反応をストレス反応と称する。』
というおおよその意見の一致が得られていると述べています。

つまり、ストレスという言葉は厳密な定義はないけれども、

 有害な刺激(ストレッサー)が生体に加わる
⇒有害な刺激(ストレッサー)を受けた生体が不快に感じる
⇒その時に生体に起こった精神的変化がストレス
⇒その精神的変化があった生体がおこす反応や行動がストレス反応

という流れで発生するものだと分かります。

ストレスについてどういうものか分かったので、次に有害な刺激(ストレッサー)の種類を見ていきましょう。

コーピングをするときにストレッサーの種類がわかっていると正しいコーピング法を選ぶ時に役立ちます。


心や身体に影響を及ぼす刺激(ストレッサー)の種類

私たちの心や身体に影響を及ぼす刺激(ストレッサー)の種類には、下の3つがあります。

  • 物理的ストレッサー(暑さや寒さ、騒音や混雑など)
  • 科学的ストレッサー(公害物質、薬物、酸素欠乏・過剰、一酸化炭素など)
  • 心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事上の問題、家庭の問題など)

普段、私たちが「ストレス」と言っているものの多くは、心理・社会的ストレッサー(人間関係や仕事上の問題、家庭の問題など)のことですね。
特に、職場では「仕事の量」、「仕事の質」、「対人関係」を筆頭に、ストレスとなる可能性があるさまざまなストレッサーがあります。

次に、ストレッサーにより引き起こされる「ストレス反応」について見ていきましょう。

ストレッサーにより引き起こされるストレス反応

ストレッサーにより引き起こされるストレス反応の種類には、下の3つがあります。

  • 心理面
  • 身体面
  • 行動面

先述した熊野宏昭博士の『ストレスの評価』についての論文によると、
『実はストレス反応は、落ち込んだり、イライラしたり、不安になったりと、心理面に出ることもあるし、お酒やタバコの量が増えたり、じっとしていられなくなるなど、行動面に出ることもある。そして、同じストレッサーにさらされても、ストレスがたまりやすい人とそうでない人がいる事実は、体質や性格などの個人差要因によって説明されている。したがって、「ストレスの評価」を行う場合には、少なくとも、以上に述べたストレスモデルのそれぞれの側面(ストレッサー、体質や性格などの個人的要因、身体・心理・行動面に及ぶストレス反応)に注目する必要がある。』
と述べられています。

ストレス反応は、精神的に落ち込んだり、イライラしたり、不安になったりと精神的(心理面)な影響として出ることもあるし、お酒やタバコが増えたり、いてもたってもおれずにじっとしていられなくなるといった行動面に影響として出ることもあることが述べられています。
これは、人によってストレス反応が心理面に出やすい人、行動面に出やすい人がいるということです。
ストレスがたまりやすい人とたまりにくい人がいるように、心理面と行動面それぞれに出やすい人と出にくい人がいる、個人差があるというわけです。
ストレス反応が心理面に出やすいのか行動面に出やすいのかによって、コーピングの方法を変化させると良いでしょう。

心理面でのストレス反応

心理面でのストレス反応には、
情緒的反応として、不安、恐怖、イライラ、落ち込み、緊張、怒り、罪悪感、感情鈍麻、孤独感、疎外感、無気力などの感情があらわれます。
心理的機能の変化として、集中困難、思考力低下、短期記憶喪失、判断・決断力低下などの障害があらわれます。

身体面でのストレス反応

身体面でのストレス反応には、
入眠障害(寝つきが悪い)・中途覚醒(夜中に目が覚める)などの睡眠障害、動悸、異常な発熱、頭痛、腹痛、肩こり、腰痛、易疲労感、食欲の減退、嘔吐、下痢、のぼせ、めまい、目の疲れ、しびれ、悪寒による震えなど、全身にわたる症状があらわれます。

行動面でのストレス反応

行動面でのストレス反応には、飲酒量や喫煙量の増加、食欲亢進(ドカ食い)、ひきこもり、欠勤や遅刻の増加、仕事でのミスやヒヤリハットの増加など、普段の行動のブレーキが利かなくなるような問題があらわれます。

これらのストレス反応が長く続く場合には、過剰なストレス状態に陥っているサインの可能性があります。これらの症状に気がついたら、普段の生活を振り返り、ストレスを上手く処理する・付き合っていく方法(コーピング)を工夫する必要があります。

ストレッサーの種類とストレス反応について分かったので、次にコーピングの種類についてです。

先述でストレッサー(刺激)の種類と、ストレッサーによりどのようなストレス反応が引き起こされるかが分かりましたね。
ストレス反応に対処するために、どんなコーピングをすれば良いのかを知るためにコーピングの種類について見ていきましょう。

コーピングの種類

ストレスへの対処方法であるコーピングには大きく「問題焦点型」、「情動焦点型」の2種類があります。問題焦点型コーピング、情動焦点型コーピングともに多くの論文が記述されていますが、その中でもわかりやすく定義されているものを紹介します。
問題焦点型コーピングは、九州大学心理学田中輝海博士と同大学人間環境学研究院 人間科学部門 健康・スポーツ科学講座杉山佳生教授による論文によると、
『対峙する困難に対して解決に向けた積極的な働きかけや状況の打開を試みる対処を指す「問題解決」と不測の事態の中でも明るい側面に目を向け、肯定的な解釈を試みる対処を指す「認知的再解釈」の2つの下位概念から構成される』
と定義されています。
情動焦点型コーピングは、鳴門教育大学教育心理学部内田香奈子准教授の論文によると、
『情動焦点型コーピングは、Folkman & Lazarus(1980)に代表されるコーピングの下位概念であり、ストレスフルな感情を調整しようとする対処を指す。』
と定義されています。

種類別にどのような違いがあるかみていきましょう。

日本看護協会 ストレスへの対処法 から引用

問題焦点型コーピング

問題焦点型コーピングは、簡単に言うとストレスの原因に対処するコーピング方法です。
上記の日本看護協会から紹介されているストレスへの対処法にもある通り、ストレスの原因に対して自分の努力や周囲の協力を得ることで対処し、解決する方法です。
自分の努力や周囲の協力を得ても解決できないときは、ストレスとなる原因(人や物や場所)を避けるといった回避行動をとることも、問題焦点型コーピングに含まれます。
会社での仕事・学校での勉強・部活動での成果を例に挙げます。
誰しもが仕事内容・勉強・競技・人間関係などに対して、気持ちの面で消耗して本来持っている力を発揮できなくなる経験をしたことがあると思います。
・仕事で目標に向かって努力していたけど、外的・内的な理由(ストレスの原因)でやる気が削がれてモチベーションを保てなくなった。
・○○高校・大学に行くために努力して勉強していたけれど、思うように成績が伸びなかったり、遊びたくなったり、他のやりたいことに目移りして(ストレスの原因)勉強できなくなった。
・部活動で陸上をしていたけど、けが(ストレスの原因)をして練習ができなくなり、その後のやる気を保てなかった。部活動での人間関係(ストレスの原因)が嫌になり競技に打ち込めなくなった。
このようにストレスの原因により、目標に向かって努力するやる気が失われることはよくみられます。
やる気を失う原因となった、ストレスへ直接対処するコーピング方法を問題焦点型コーピングといいます。

情動焦点型コーピング

情動焦点型コーピングは、簡単に言うとストレスを強く感じている人の感情の動き(情動)に対処するコーピング方法です。
上記の日本看護協会から紹介されているストレスへの対処法にもある通り、解決方法が見つからない場合に怒りや不安、悲しみなどのネガティブな感情を出す(エクスプリシット感情)ことで対処したり、反対に自尊心や自尊感情により自我の表現を抑える(インプリシット感情)ことで対処し解決する方法です。
エクスプリシット感情は、質問用紙で問われた項目に関して、記述型で自分のことを答える方法で測られます。自分が意識できている認識できている情動への自己評価です。有名な方法で、エクスプレッシブ・ライティングという方法があります。

エクスプレッシブ・ライティングについての詳しい記事は
こちら👉https://various-problem-solving.com/?p=313

これに対してインプリシット感情は、研究者により定義づけが異なり、インプリシット感情とは何たるかについての共通認識は十分にありません。
そこで、数ある論文の中から鳴門教育大学発達心理学部特命教授が中心となって記述した『無意識と意識、そして、インプリシット心的特徴』の論文が分かりやすく記述されてあったのでから抜粋して紹介します。
インプリシットという言葉と概念は、多くの心的特徴(心理的な働きの特徴)に適用されますが、当論文で紹介されている「感情に関する心的特徴」の機能は、インプリシット心的特徴の内容や働きにおいて中心的な役割を果たすと考えられています。
心的特徴は無意識下での影響を必ず受けるものです。つまり、人間の無意識を底部、意識内にある状態を上部と表すと、無意識の底部は必ず意識内にある状態の上部に影響を及ぼします。
ただし、どこまでどれほど無意識によって影響されているかを明確にするのは困難で、無意識なので内容を測定することや評価するには時間も労力も必要になります。
その状況の中でも、感情は必ず情動から生まれるものなので無意識(底部)の影響を受けるのは当然です。
つまり、情動は無意識から意識内まで広く展開されます。このことから、インプリシット感情はこの情動のどこかに位置すると想定することができます。
Quirin et al.(2009)によると、インプリシット感情は、感情的経験の認知的表象の自動的賦活と定義されています。かみくだいていうと、「このままではまずいと思う経験により、心の中で描かれた(感情)が自動的に活発化する」という意味になります。インプリシット感情は、心の中では活発化しますが、外に向けて表出することはありません。
「感情に至る前に、心の中で感覚として自覚し体験として認識し、反省し次にいかすという心理的な働き」ということです。
結論、インプリシット感情は、情動に上るよりも前に概念として意識されるよりも前に自動的に作用するものということです。
逆にいうと、意識化された時点でインプリシット感情ではなくなります。

情動焦点型コーピングでは、エクスプリシット感情とインプリシット感情を用いて対処し解決するコーピング方法だということがわかりました。




効果的にコーピングをとり入れる方法 まとめ

ここまで多くの論文を見てきた中で、効果的にコーピングをとり入れて活用するためには、はじめに冷静にストレスの種類を見極めることが重要です。
今、ストレスを感じているのは、自分にとってどのような有害な刺激を受けたことによるものなのか。有害な刺激によって心理的にどのような変化が起きたのか。心理的な変化が起きたことにより、どのような感情的な表現・言動を発したか、身体的な変化が起きたか、行動に変化が起きたか。
ここまで、ストレスによる一連の変化を冷静に見極めることができれば、対処行動としてどんなコーピングを活用すれば良いかを考えることができます。
対処行動としてコーピングを自分で考え活用する術を身につけることで、ストレスになりうる有害な刺激を受けた時に都度、冷静に刺激の種類を理解することができ、ストレスとなりストレス反応が出る前に自分自身で対処行動を理論立てて考え、有害な刺激に対してコントロールできるようになるでしょう。

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